古河AS厚木事務所では、主にトラックをはじめとする商用車向けハーネスの設計開発を担当。お客様の現場に近い距離で日々細やかな調整を重ねながら、量産までの確かな製品づくりを支えています。
3回でお届けする今回のプロジェクトストーリー。前編では、お客様初のEVトラック開発プロジェクトから参画し、これまでにない新たな技術課題に挑む高圧ハーネスチームの奮闘に迫ります。メンバーでグループリーダーの市田さん、顧客調整業務などを担当する日高さん、若手のホープ西村さんに話を聞きました。

 

目次

    • 初のEVトラック開発プロジェクト
    • 高圧ハーネスの“初めてづくし”に挑む難しさ
    • 街を走る姿にやりがいと達成感
    • 積み重ねた経験が育んだ提案力
    • 高圧の面白さを次代へつなぐ、それぞれの挑戦

初のEVトラック開発プロジェクト


―まずは皆さんの担当業務を教えてください。

市田: 私たちは、お客様初のEVトラックの高圧ハーネスの開発を担当するチームです。プロジェクトは2020年にスタートし、約3年の開発期間を経て、2023年に市場にリリースされました。私たちはその立ち上げ当初から関わっており、現在は次期モデルチェンジに向けた検討や調整を進めているところです。

私はグループリーダーとして、全体のスケジュール調整を担当しています。お客様の開発日程に合わせて、社内の生産準備がスムーズに進むように調整するのが主な役割です。急な設計変更が発生することも多いため、社内に迅速に展開し、納期に影響が出ないよう対応しています。

グループリーダーの市田さん

日高: 私は主にお客様との仕様調整を担当しています。今回のEVトラックは、宅配車両のような標準タイプだけでなく、ごみ収集車や高所作業車といった特殊車両への展開もあり、仕様が非常に多様です。お客様と車両ごとのハーネス仕様を確認し、社内の製造部門と共有し「お客様の要求に対して、製造が可能かどうか」「どうすれば対応できるか」といった視点で調整を行い、最終的に製造可能な仕様に落とし込むところまで関わっています。

 

顧客との調整業務を担当する日高さん

西村: 私は、お客様から受領した図面をもとに、社内での生産準備を担当しています。図面通りに製品を試作する「製造トライ」という工程があるのですが、その段階で実際には製造が難しい箇所や改善が必要な部分が見つかることがあります。そういった場合に、製造部門からの意見を踏まえてお客様と調整を行い、図面の修正をお願いするといったやり取りを行います。単に図面通りに作るのではなく、より製造しやすく安定した品質で量産できる形を目指して調整していくのが私の役割です。

 

図面精度の向上を担当する西村さん

 

高圧ハーネスの“初めてづくし”に挑む難しさ


―初のEVトラックの開発当初は、どんなことが大変でしたか。

日高: 一番苦労したのは、高圧コネクタの接続構造に関する仕様の決定でした。従来のコネクタは低い電圧(12V, 24Vなど)の回路を接続する比較的簡素な形状だったのですが、EVでは高電圧を扱うため、感電や短絡のリスクを低減させる安全対策が必要になります。さらに電磁ノイズを外部に漏らさない“シールド構造”が不可欠となっており、この電磁ノイズを遮蔽する機能を備えた高圧ハーネスの設計は、私たちにとって初の取り組みでした。複雑な構成部品を把握することが必要で、それらをどう圧着するのか、すべてをゼロから検討しなければならなかったのが非常に難しかったですね。

市田: 今回の製品では、今までにない構成部品が増えていて、それがどこに使われるのか、どう取り付けるのかといった基本的なことすら最初は手探り状態でした。1つ1つ確認しながら、お客様とも製造側とも丁寧にやり取りを重ねていきました。正直なところ、我々ですらお客様からの情報を見て混乱することが多かったので、実際にそれを形にする製造現場はもっと混乱しますよね。製造部門とは週1回の定例会議に加えて、必要に応じて個別の打ち合わせも随時実施しました。お客様とも、実物を見ながらでないとわからない部分は、必ず対面で確認するようにしていました。そうした地道な積み重ねを1年ほど続けて、ようやく「これなら作れる」と言える仕様を一緒に作り上げることができたと思っています。

西村: 図面をめぐっては、製造現場とお客様の間で意見が異なることもあり、その間に立って調整が必要な場面があります。お客様からは「この仕様は変えられない」と言われ、一方で製造側からは「このままでは作りづらい」と求められる。そうした状況で、どう着地させるかを考えるのが一番難しいところでした。まだ経験が浅いため、自分だけで判断できないことも多く、そういうときは市田さんと日高さんに相談しながら進めるようにしていました。お客様への言い方ひとつ取っても、私はどうしても受け身になってしまいがちなので、お2人のように柔軟に交渉しながら進める姿勢は本当に勉強になります。一方で、製造現場には同期入社の仲間もいて比較的フラットに話ができたので、「図面を変えずに、どうにか工夫できないか」といった調整の相談は自分なりにできるようになってきたと思っています。

トラックに搭載される高圧ハーネス

 

街を走る姿にやりがいと達成感


―大変なことも多い中で、仕事のやりがいや面白さはどんなところにありますか。

市田: やはり一番は、自分たちが開発に携わったEVトラックが実際に街を走っているのを見た瞬間ですね。苦労した分、「ああ、ちゃんと形になったんだな」と実感できて、ものすごく嬉しいです。量産車両が完成したときの、お客様と一緒にやり切ったんだという達成感は今でも忘れられません。

また新しい技術が次々と出てくる中で、それをどう取り入れていくかを常に考えながら仕事に関われるのは面白いところだと思いますね。

新しい技術をいかに取り入れるかを考えることが仕事の面白さ、と市田さんは語る。

 

日高: 私も自分が関わった車両を実際に見たときは嬉しかったですね。お客様と一緒に仕様を決めていく中で、自分の提案が採用されたときや、お客様と苦労して検討した仕様が形になった時は、特にやりがいを感じました。現在やり取りしているお客様とは、とてもフレンドリーで気兼ねなく相談し合える関係が築けており、調整が難しいお願いでもお互いに言い合えるような信頼関係があります。だからこそ、前向きに仕事を進められていると感じますし、「仕事がしやすい、またお願いしたい」と言っていただけるのが一番嬉しいですね。

お客様との絆を深め、ともに形にしていくことがやりがいに。

 

 

 

 

西村: 自分の提案やアイデアが採用されて、思い通りに仕事が進んだり、実際に形になったのを見たときは、やりがいを感じます。チームには、立場に関係なく意見をしっかり聞いてもらえる雰囲気があって、私のような若手でも安心して発言できるのがありがたいです。

 

積み重ねた経験が育んだ提案力


―西村さんは、プロジェクトを通じて成長を感じることはありましたか。

西村: 最初の頃は、「どうしたらいいですか?」と聞くばかりで、自分の考えを持てていませんでしたが、徐々に「こう考えているのですが大丈夫ですか?」といった相談ができるようになっていきました。少しずつ自分なりに考えて動けるようになったことで、仕事が面白く感じられるようになりました。

上司の助言を受けながら実務への理解を深め、前向きに臨む西村さん。

 

日高: 西村さんにアドバイスしたのは、お客様の要求に対して、ただ「できません」と返すのではなく、「こうすれば対応できるかもしれません」と代案を添えて伝える姿勢が大切だということです。そうした提案型のコミュニケーションも自然にできるようになってきて、今では自分でしっかり確認しながら進められるようになったと思います。大きな成長を感じていますね。

市田: 開発って、お互いに譲り合いながら進めていかないと、うまく形にならないものなんですよね。どこが絶対に守るべきポイントで、どこなら柔軟に対応できるか――そういった考え方を最初に伝えたのですが、彼はそれをしっかり理解してくれました。むしろ後半になると、私では思いつかないような視点から提案してくれて、「それ、いいね」と思わず食いついてしまうこともあって。いい意味で、私たちにはない発想を持っているので、すごく期待しています。お客様からも「元気があって、若いのに積極的に提案してくれる。いいね」と褒めてもらっていますよ。

西村: 本当ですか、すごく嬉しいです。お二人から教わったことで一番大きかったのは、やっぱりお客様との接し方ですね。私は最初、言葉がストレートすぎてしまって、相手にどう伝えるかの配慮が足りなかったのですが、「もう少し柔らかく伝えてみよう」とアドバイスいただいたことで、言い回しや交渉の仕方も少しずつ身についてきた気がします。

若手ならではの発想力に、市田さんは大きな期待を寄せている。

 

高圧の面白さを次代へつなぐ、それぞれの挑戦


―皆さんの今後の目標を教えてください。

市田: 今後はよりスムーズに高圧ハーネスの開発が効率よく進められる体制づくりをしていきたいと考えています。例えば知識や経験をデータベース化して、誰でもEV開発に携われるような仕組みを整えていけたら理想ですね。

後進の育成では、「仕事は面白くなければ続かない」がモットーです。目の前の仕事に興味を持ち、自分なりの“こうしたい”という気持ちを持ってほしい。だからこそ、こちらから型にはめるのではなく、どうしたいかを一緒に考える姿勢を大切にしたいと思っています。

日高: 今回、高圧ハーネスの難しさと面白さを多く学ばせてもらったので、今後、他の車種にも広げて受注につなげられるよう、お客様との関係づくりを続けていきたいです。さらに高圧関連の知識を深め、将来的には乗用車なども含めた分野で活躍できるプロフェッショナルな設計者を目指したいです。高圧部品は構造が複雑な分、製造できるよう構築していく過程にやりがいがありますし、難しいからこそ完成したときの達成感も大きい。自分が感じたこの「高圧の面白さ」は、ぜひ後輩たちにも伝えていきたいですね。

西村: 今後の目標は、社内とお客様それぞれの事情や制約を正しく理解し、業務を進める上での選択肢を広げ、より的確な判断や対応ができるようになることです。現在はまだ経験の浅い業務も多いため、まずは目の前の仕事を着実にこなせるよう頑張ります。将来的には、社内の仕組みやお客様の考え方を幅広く理解し、それをもとに最適な交渉や提案ができる人材を目指したいです。

 

おわりに

前編では、EVトラックの開発を担う高圧ハーネスチームに、初めてづくしの開発に挑んだ設計現場の苦労や工夫、ものづくりのやりがい、そして若手メンバーの成長について聞きました。中編では、低圧ハーネスチームの社内外にまたがる連携の取り組みに迫ります。どうぞお楽しみに!