MaaS(Mobility as a Service)により、必要なときに必要な分だけ利用するという考え方が主流になることが予想される今、車の商用化が進んでいくことが予想されます。車が個人の所有するものから公共のインフラへと変わることで、自動車に求められる機能やサービスも変容をみせていくことでしょう。
転換期に立つ自動車産業。部品やシステムを供給する立場としての古河ASの今後のビジネスのあり方とは。引き続き古河AS 常務取締役兼執行役員 山井智之さんにお話を伺いました。

車両の新たな市場価値、Shared & Servicesによるニーズへのシフト


―「CASE」のS Shared & Servicesにおいて古河ASが担っている領域についてお伺いします。

「Shared & Servicesが広がっていくことにより、市場の車の台数は先進国においては減少方向と言われますが、車両それぞれの稼働率が上がるため、入れ替え回数(消費)は増加し、出荷台数は変わらないと考えています」

―新たなニーズへのシフトですね。

「古河ASでは、そういったニーズにおける車両の信頼性や性能の向上へ向けて、独自の製品規格を構築するチームを設置し、それに合うような製品開発活動を開始しています」

―個々のユーザによって使用頻度や用途、稼働時間が多様化していく中、具体的にはどのような製品が活躍していくのでしょうか。

「一例として、車でのより高い居住性へ向けて、室内をいかに広く快適にするかといった点で、ワイヤハーネスの進化も必要ですが、そのひとつとして従来のケーブルを平面化したフラットケーブルを用いた製品の需要が高まってきており、こちらの市場拡大に向け、応用製品の種類を広げている最中です」

 

ワイヤハーネスのフラットケーブル化で変わる車の居住性と、次世代へ向けて


「例えばスライド式のドアにおいて、パワーウィンドウはもちろん、電動での開閉装置やスピーカー、イルミネーションなど様々な機能が快適性と居住性向上のために付加されています。そのため回路数が増え、ドアとボディーを結ぶワイヤハーネスも太くなり、硬くて動きにくいものになります。スライド式シートにも同様の課題があります。それらにフラットケーブルを採用することによって平面的な動作をするような構造に変え、省スペースやデザイン性かつ耐久性の高いものを提供することができます」

フラットケーブルを用いた製品には、スライドドアの開閉に追従するスライドドアハーネスや、ロングスライドシートハーネスが挙げられます。

「また、これらの技術が実現している背景には、SRC(ステアリングロールコネクタ)と呼ばれる製品の存在があります。SRCは乗員の安全に必須の製品であり、また古河ASが世界シェア1位を保有する製品です」

「SRCに用いているフラットケーブルの技術蓄積やグローバルでの供給体制を活かして、別のアプリケーションへの展開が可能となりました」

「大きくスライドするシートや、近い将来、シェアリングカーのアプリケーションとして回転するシートなどを搭載した際にもシートへの給電が必要になりますが、このフラットケーブルでの給電方法に加えて、更に次世代の技術としてワイヤレスで電力や信号を送る技術など、古河ASと親会社である古河電工の研究部門のそれぞれの優位技術を合わせ研究開発を進めています。シートへの給電に留まらず現在様々なアイディアが出てきており、この分野は大きな可能性を秘めていると言えます」

まさに未来の車ですね。
これまで全く想像できなかったことが実現していく未来は、車においてもそう遠くないようです。

古河ASでは高信頼性をベースに車両の高耐久性を目指した製品の提供を行っています。それに加え、次世代の居住性やデザイン性といった新しいニーズに応えるシェアリングカーの完成に向け、自社の枠を超え開発を進めていることがわかりました。

 

古河ASが切り開く道。求める「人財」像とは。


―MaaSに対する開発を進める中、ビジネスのあり方や、次世代の人財育成に関して変化したことはありますか?

「モノの提供は当然のこととして取り組んでおりますが、モノからコトと言われるサービスの提供においては、古河ASがどう貢献できるか、ビジネスディベロップメントとして模索中です」
「積極的にいろんな団体に社員を参画させトレンドや意見を収集したり発信したりするほか、お客様の先端開発の部門とのコンタクトを密にとって、古河ASが貢献しうるビジネススタイルを模索しています」

自社内だけでなく、外部との結びつきを意識して新たなビジネスモデルの創出に取り組んでいる様子が伺えます。
社内の人財育成において見るべきポイントも変化したのでしょうか。

「人財育成においては、古河ASや古河電工が持つモノやコトを実際のビジネスへ繋げるために「何を提供できるか」を発想できる、広い知識と顧客ニーズに対する敏感なセンスを持っている人財を必要としています」

 

キーワードは古河ASに継承される”DNA”



「昨年度から、マルチかつ広い視点でものごとを捉え、社内外問わず発信できるような人財の育成を意識して取り組んでおります」

創造力とコミュニケーション力を育てていくかたわら、古河ASのDNAとして根底にある技術力を継承していく人財の確保も重要だと、山井は語気を強めます。
昨今、技術の電子化やソフトウエアへの比重が製品化の良し悪しに大きく関わってきていることを、一例として挙げています。

「古河ASの強みは技術力であると自負しています。かつては素材を機械的に加工して製品に仕上げることを主体としていましたが、CASEやMaaSの流れを受け、多様化する技術のそれぞれをやりきれるような組織と人財の構成を作り上げることが必要になっています」

「電子回路やソフトウエアやアルゴリズムを始め、機構設計また射出成形やプレス、電子部品実装・・といった要素技術それぞれのエキスパートを育てるのと同時に、それらを複合化し評価する人財の育成も必要です。
中途採用を強化し、経験者を即戦力として取り入れることも行っています」

 

今後の自動車の消費動向と古河AS。移動手段から目的化するクルマ


「Shared & Servicesも自動運転同様、先進国を中心に徐々に広がります。冒頭でも申し上げましたが、稼働率の変化による車両入れ替えの頻度が上がり、出荷台数はほとんど変わらない予測です。また、先進国以外の国々においては、1人あたりの持ち台数が上がっていくことで純増を継続し、車の出荷台数が減ることはなく、全体としては増加の傾向になると見込んでいます」

「また、車両は移動手段としての用途のみならず、仕事やレジャーに人々が時間を“費やす”のに使う道具になると思っています。それを実現するために、高い信頼性と高い居住性を可能にする商品、またはサービスを提供していきたいと考えています」

移動手段であった存在から、クルマそのものが目的を持ち、時間を費やすものへと変化していく。多種多様化していく車とユーザの関係が向かう先は、一体どんな楽しい車が待っているのでしょうか。
それを支える古河ASの製品も、Shared & Servicesの拡大を受けますます欠かせない存在となっていくことでしょう。

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おわりに

インタビュー時には、オフィス随所で盛んに意見交換が行われていたのがとても印象的でした。テーブルに光が差すように吹き抜けが設計されていたり、会議室がガラス張りになっていたり、社員同士のコミュニケーションが円滑に進むようなオフィスデザインにも、古河ASに継承される”DNA”の一端を見た気がします。

既存の技術から次世代の技術へ。モノからコトへ。思考を止めることなく開発を続けられるのは、時代の潮流を捉えた柔軟な思考力が文化の根底にあるからこそ実現しているといえます。この古河ASならではの、まさにサステナブルな文化は、今後の社会でますますの強みとなっていくことでしょう。

次回は電気自動車と古河ASの関わりについて伺います。


今後もインタビューは随時更新予定です。
引き続き古河ASのプロジェクトストーリーをお楽しみください。